「死ななくてよかったと考えているなら、以前の自分みたいなやつを助けてほしい。帰国した後の自分の気持ちを書いてほしい」
いきなりのメールが僕に来ました。誰かと思ったら昔お世話になったやすさん(*管理者注:サイト管理人のこと)でした。
確認が遅くなりましたが、意外な人からのメールで驚きつつ、懐かしいなと思って、依頼されたことに応えようと思いました。
10代の頃
僕は10代の頃、自殺をしようとして、ギリギリの場面で思いとどまったことがあります。今思えば人生がうまくいかず、重度のうつ病になっていたのだと思います。高校時代は、自傷行為を繰り返してしました。
原因は、クラスメイトたちによるいじめです。その上、進路は決まらないし、先生のことも好きになれず、学校や自分にも本当に絶望したような状態でした。
そんなとき、カナダの大学院に通い、カナダの教会で働いているという日本人のブログに出会いました。
留学生活の日常が綴られているものでしたが、ときおりの投稿に、付き合っていた女性の死に関すること、自殺した幼馴染みのこと、そして自殺をしようとする人からの相談が来ていることなどが、ストレートに書かれていました。
僕はどうしてもこの変わったブログ主に連絡をしたくなり、ブログを通してメッセージを送りました。
そうして繋がったブログ主が、冒頭のメールをくれたやすさんです。
自分を変えても、いじめは解決しない
初めてのスカイプで、僕は自分のことを延々と話しました。
いじめで生きていても辛いだけであること、自傷行為がやめられないこと、死にたいので最後に話を聞いてほしいことなどを、延々とこの人に相談したことを、今では少し懐かしく思い出します。
「付き合う人間を変えろ。周りの環境を変えろ。最初に変えるべきは、おまえ自身じゃない」
引っ張り出したやすさんのメールには、昔の僕に向けてこう書かれています。
自分が周りの悪意にあわないために、僕は自分を変えようとしていました。いじめの標的にならないように、おびえながら自分を殺して、何とか日々をやり過ごそうとしていました。
そんな中、最初に変えるのは自分ではなく悪い環境の方だと言われて、はっとしました。
いじめとは、自分を変えても解決しません。いじめる人は、理由なんて後からどうとでもこじつけて、ひどいことをする口実を作ってきます。こちらが何をしても無駄なのです。
よく、いじめる側にも原因がある、という人がいます。僕はいじめられる側にも原因があるという人間は、いじめ対策のセミナーなどを通して、ちゃんと教育を受けるべきだと思っています。
いじめる人間は、相手をからかうために、どんな口実でも見つけ出せます。いじめる原因なんてどうとでもこじつけられるのに、それをいじめられる方も悪いかのように解釈するのは、あまりに勝手な見方です。
辛い思いをしている子供たちは、どうかそのような人間の言うことは一切聞かないでほしいと思います。インテリジェンスの低い人たちが自分勝手なことを話していると思って無視をして下さい。
やすさんには、「変えるのは悪いものの方で、いいものを変えてどうするの」と言われました。
僕は自分を変えようとするのをやめました。自分ではなく、最初に環境を変えることにしました。
アメリカの高校、ヨーロッパの大学へ
お金の問題で大学進学を考えることができなかった僕は、そこで初めて大学の学位を取ることを勧められました。それもヨーロッパで!
僕は親と育ってはいません。事情があって、いわゆる児童養護施設で育っています。
僕には支援してくれる親がいません。成績も良くはないし、奨学金なんて夢のまた夢です。学費を借金をしてまで大学に行く気はありません。
これで進学なんてできるわけがないです。
そう言ったはずなのに、それでもこの人は進学できると言い張ります。学費も払う必要がないとまで言ってきました。
さすがに嘘くさいなと思いました。実際に嘘つき呼ばわりもしました(その節はすいません)。
それでも、やすさんは同じことを言い張ります。自分に任せればそれが可能になると言います。
僕は信じきれませんでした。
そこで、僕たちは賭けをすることになりました。
嘘だったら、僕はやすさんの名前を出して最後に「騙された」と書き残して死ぬ。本当だったら、僕はTOEFLで550点(*管理者注:当時はPaper-basedで677点満点)取るまで英語の勉強を死ぬ気でする。
確かこのような条件だったと思います。
結果は、僕の負けです。
言われたことは本当でした。この人は自信満々のふりをして僕に一時の希望を与えようとしているだけと思ったら、あとで聞いたところによると、単にできると知っているから自信満々だっただけでした。
僕は勢いに流されて、条件に従うことになりました。
留学を断る権利はありました。でも冷静に考えると、こんないい条件はありません。
嫌いな地元から離れられる、無料で大学に行ける、と考え、ヨーロッパで大学に行くという、想像してなかった世界に飛び込むことを、僕は決めました。
振り返ると人生で最も大きな決断だったと思います。この決断が大正解になりました。やすさんがこれを読むから言うわけではなく、本当にそう思います。
高校は辞めて、提案された通りにアメリカの通信制高校に編入しました。学費も安く、英語に慣れてから海外で大学進学するには、これが僕には最善でした。
通信制高校の学費は10万円ほどで、アメリカの高校卒業資格+大学の単位が少し取れました。授業で使う英語はやはり大変でしたが、大学に行く前の英語の訓練にもなりました。
大学は学費が無料。セメスターフィーはかかりましたが、やすさんが立て替えてくれました。その代わりに、将来自分みたいな人が出てきたら助けてやってくれと言われていたので、今その分の手伝いをしようとして、こうしてこれを書かせていただいています。
英語を学ぶのは約束だったので、日本の高校を辞めてから、こんなにやったことなんてないよっていうほど、英語の勉強を頑張りました。アルクのTOEFL参考書、映画を英語音声・英語字幕でひたすら見る、NHKラジオ英会話を欠かさずこなすなど、やれと言われたことは全てやりました。もともと英語は最も得意な科目だったので、自分でも驚くくらいの点数の上昇がありました。
そうして、苦労は限りなくあったけれど、ちゃんと大学に行っても英語で授業を聞き取れるようにまでなりました。大学の成績は、まあ聞かないで下さい。
僕に必要だったのは卒業証書。それは、ちゃんともらうことができました。
死ぬ以外の道に賭けて思うこと
僕は普通に日本で就職しました。高校時代は就職は嫌だなあと思っていたけど、実際は就職も悪くないと思いました。ヨーロッパに行く前と比べると、この生活は天国のようなものです。
今振り返ると、あんなに絶望していた日々は何だったんだろうと思います。環境を変えたことで、僕の人生はガラッと変わりました。
いじめで苦しんでいる人は、死にたければ死ねばいいし、他の道に賭けたければ賭ければいいと僕は思います。
僕は、他の道に賭けました。環境を変えました。この賭けが大正解でした。
賭けたというより、やすさんの勢いに流されたと言った方が正確かもしれません。それか、挑発に乗せられたと言った方がいいのか。いま思うとカナダ仕込みのカウンセリング技術に、まんまと僕は操られたのかもしれません。
でも悪い気はしません。ありがたいことに。
今もどちらかというと辛いことの方が多い日々ですが、それでも生きていてよかったと思います。
僕はたまたま、死ななくてよかったと思った側の人間です。やすさん自身もそうだと言っていました。少なくとも、死ななくて良かったというサンプルは、世の中に二つあるということになります。
死んだら喋れません。死んでよかったと言う人はいないから、少し不公平な言い方ですが、とにかく逆のサンプルはあるわけです。
生きてるといいことがあるのでしょうか。
僕にはわかりません。
でも、僕にはいいことがありました。いや、いいこと「も」あったと言っておきましょう。
人生は楽だけではありません。苦もいっぱいあります。
でも、いま生きててよかった、と確かにそう言えます。
何を証言していいのかわからないのですが、僕の証言があのときの自分のような人の心に、少しでも残ってくれたらいいなと思います。
(K・N/男性)

まだバンクーバーの教会で働いていた頃に巡り合った人からの寄稿。彼が示唆するように、環境を変えたいと思ったら、その選択肢は日本だけじゃない。外国語さえ必死で学ぶ気があるなら、海外に飛び出して、自分の可能性を探ることだってできる。
一般的な学校に通っていると、どうしても学校が世界がほぼ全てのように思えてしまうけど、ちっちゃな学校内ワールドで行き詰まったからといって、それは人生の終わりを意味しない。もしも命を絶つことを考えている子がいるのなら、狭い世界から飛び出して未来を生きた人間の証言にも、少しだけ耳を傾けてほしい。無料プランが用意されているので、いつでもそれを利用して下さい。